いわての新鮮力

葛巻町 酪農家 久保淳(くぼまこと)さん

 葛巻町における酪農の発祥地ともいわれる江刈地区。
 5月初旬、山ふもとの畑地を、土煙をあげながら巨大なトラクターが縦横している。デントコーン播種を間近に控えてのたい肥散布はまさに佳境だ。
 「今うちには搾乳牛50頭に育成牛30頭がいますが、約15ヘクタールの採草地があるので粗飼料はほぼ自給できます」。散布を終え、畑地を見回しながら久保淳さんが話す。江刈で酪農を営む久保家の4代目、今年からJA新いわて青年部葛巻中央支部長もつとめる若き酪農家である。

 酪農は葛巻町の基幹産業であり、酪農家は江刈・葛巻・小屋瀬の3地区を中心に現在190戸ほど。町の経営する葛巻畜産開発公社を筆頭に、2〜3頭を飼育する小規模経営まで形態はさまざまだが、葛巻産牛乳の品質への評価は高い。久保家では淳さんと両親の3人体制で従事、多い時は1日1500リットルの生乳を出荷する。「搾乳は牛の調子を見ながらで、どれだけ絞るかは酪農家それぞれの判断。目安はあっても『マニュアル』はないのが飼育ですから」。個体管理に加え分娩や種付など、乳量を増やすためやるべき仕事は日々山積みである。だが「真面目にきちんと、手をかけた分だけ牛は返してくれる」と久保さんは酪農の醍醐味、そしてやりがいを口にする。

 久保さんに限らず葛巻町は若い酪農家が多く、青年部で一番多いのも25歳から30歳。その上部組織に当たる生産部会の中心は50歳台だが、葛巻には「同志会」と呼ばれる地区単位での酪農家の集まりがあり、世代間交流も自然に行われている。また酪農ヘルパーの中心も20代後半の酪農後継者で、久保さんは就農直後から経営者となった今も登録をしている。「若い酪農ヘルパーにとっては頼れるアニキでしょう」。そう言って笑うのは、久保さんの友人でありJA新いわて東部営農経済センターの上家皆応さん。上家さんもまた、葛巻町の若き酪農家の一人である。
 若い世代の活躍は、厳しさを増す酪農経営における光明ともいえるだろう。だが地域の酪農家をサポートしている上家さんは「ここに今一番必要なのは、草地やデントコーンなど粗飼料生産の基盤」と力を込める。土地の多くを山や傾斜地が占める葛巻町では粗飼料を自給できる酪農家は少なく、他所から買わざるを得ないのが現状。解消策のひとつが遊休農地からの転用であるが、実現のための課題は少なくない。「小さな畑地では大型機械の作業ができず、また(畑地が)点在しているためコストもかかる。集約するには町民の理解も必要になってくるでしょう」。

 平成14年に久保さんは近隣の酪農家と協力し、粗飼料調整を目的とした「五日市堆肥利用組合」を結成。翌15年には200頭分のたい肥処理が可能な発酵処理施設も完成し、現在は5戸の組合員で施設を運営、粗飼料の生産向上につとめている。仲間のひとり市村栄一さんは「ランニングコストの課題もあるが、皆で協力して作業にあたれるのはいい」と組合の存在に期待を寄せる。粗飼料の確保という命題に、久保さんら次世代の酪農家は力を合わせ取り組んでいるのだ。
 「結局は牛がかわいいから、この仕事に関わっている人が多いんですよ」。久保さんはいう。
 葛巻の酪農発祥地・江刈。この地で脈々と受け継がれて来た酪農家の情熱を支えるものは、牛への愛情という、驚くほどにシンプルで純粋な思いだった。

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