いわての新鮮力 奥州市前沢区 米農家 山田賢治さん

 奥州市前沢区の東、北上山地の裾野に広がる生母地区。阿弖流為(アテルイ)とともに朝廷軍と戦った英雄・母禮(モレ)の屋敷跡と伝えられる場所もある静かな山里は、上木川の流れに沿って折り重なるようにして小さな水田が広がっている。
「うちの祖父が一関からここに入植したのは終戦後。山を切り開き、ずいぶんと苦労して開墾したという話を聞いているから、受け継いでいかねばなと思っています。」
 360度周囲を山に囲まれ、傾斜に沿って作られた田を守るように民家が点在する小さな集落。11世帯のほとんどが稲作に従事しているというここ上木山で、山田賢治さんは約40アールの水田を耕作し、家族の経営する建設会社で左官の仕事もしている。前沢は東日本大震災の被害も大きかったから工事の仕事も多く、農繁期と重なる時期はいつも以上に忙しかった。しかし仕事の両立に気負うことなく、稲を見つめるまなざしも穏やかだ。

 前沢を含む岩手県南は県内屈指の穀倉地帯。主要地の多くは大河北上川の流域に開けた平坦地であり、米の質も高い評価を受けている。その点、山田さんの耕作する水田は平地から離れた場所にあり、また山に囲まれている地形も影響して平均して1~2度気温が涼しくなるという。今年の田植えは5月下旬であり、県全体が総じて遅くなったとはいえ平地に比べるとやはり遅い。この気象条件に加え、苦労してきたのが水の確保。用水は沢水を利用しているが、数年前の台風で沢が決壊。その後補強整備されたコンクリート製の用水路が集落の米を支えている。家の裏山には「ため池」があり、こちらは非常時に使うものだという。集落にはこのようなため池がいくつか点在するといい、先人の知恵と苦労が偲ばれる。

 地形による日照時間の短さや冷涼な気温はハンデといえるのかもしれない。しかし管理の徹底でリカバリーできることは、山田さんの田を見ればわかる。なにより山に囲まれた涼しい環境は病害虫の発生を抑えられ、周囲の農薬散布の影響を受けないという利点もある。それゆえ山田さんの作るひとめぼれは、特別栽培米に指定されているのだ。
 青年部活動では前沢地域委員長をつとめ、地域のイベントにも積極的に参加。また近隣の白山小学校ではダイコンづくりなどの農業体験学習も行ってきた。「前沢は前沢牛をはじめ、さまざまな農産物がとれる地域だが、胆沢のピーマンのように話題性のある野菜づくりに力を入れていくのがいいと思う。」若手生産者のひとりとして、地域農業の展望も描いている。

 この日は畦畔の草刈り。敷地の高低差があるため法面も広大で、草刈り作業はひんぱんに行わなければならない。豊かな実りを願い、今日も山田さんは田に向き合っている。

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