いわての新鮮力 奥州市江刺区 畜産家 菊地毅さん

 奥州市江刺区内に畜舎をかまえる有限会社菊池畜産。岩手県南を代表する「えさし牛」の生産農家として常時約350頭を飼養し、また自家繁殖も行っている。
 菊池毅さんはここで、父であり社長でもある達さんを兄とともに支えている畜産家だ。28歳で就農して今年で4年となるが、「繁殖をいちから勉強してきたようなもの」と、これまでの4年間を振り返る。それはアメリカの巨大な生産牧場で、農作業を経験したことが大きい。

 大学を卒業後郷里に戻り、JA江刺に勤務していた菊地さん。就農をひかえ、先輩農家から体験談を聞いて興味を持った海外農業研修に臨んだ。研修期間は2年間で、日本での半年間の事前研修を受けたのちアメリカへと渡り、最初の3ヶ月は果樹園での作業を体験したという。その後3ヶ月程度の語学研修を受け、菊地さんはいよいよ専門の畜産分野へと向かった。研修先は、アメリカ屈指の農業州アイダホにある大規模畜産農家だった。
 「馬に乗って牧草を求めて広い牧場内を遊牧する、まさにカウボーイ生活。事前研修を受けていったものの、日本の畜産業とのあまりの違いに驚きました」。
 研修では日々の給餌ほか、5月から6月にかけては牧草の収穫に追われ、春は除角やワクチン接種などが待っていた。作業内容は日本の畜産と変わらなくとも、アメリカとはそもそものスケールが違いすぎる。「仕事量そして技術的なことも含め、我慢強さが身に付いた」と菊池さんは笑うが、ここでの体験から逆に自身の進むべき道が見えたのかもしれない。帰国後すぐに就農して自家繁殖をはじめるなど、家族形態の畜産経営に貢献してきた。

 現在は、担当する畜舎での作業のほか市場へ子牛の買い付けに出かけ、時に食肉市場へ出向いて枝肉を確認することも。畜産でまず大事なのは子牛の見きわめという、父達さんからの教えを胸に刻んでいる。「子牛を見て肉が背負ってくるかどうか、出来上がりを想像するのが大事。だから市場での導入は、ある意味わくわくします」という。体調管理には万全を期すなど、「美味しい肉づくり」にも余念がない。
「美味しい肉って、サシだけじゃない脂や肉自体のつくりも大事。大体、見た目で体に張りのある牛は歩留まりもいいんですが、肉質は割ってみないとわからない。血統、餌の質…いいものを作る条件はたくさんで、どれが関係しているか一概にわかるものでもないですし」。

 今年5月に訪れた東京食肉市場は、取り引き相場の安さに驚いたという。それが震災による風評の影響なのか、そもそも消費者の買い控えなのかはわからない。しかし「相場は変動するものだから仕方ない」と菊地さん。畜産家として、安定していい牛肉を作ることが自身の最大のテーマと考えている。「毎回いいものを出せているかどうか、正直分からない部分もある。だからこそ、いい牛肉が出来た時には食べてほしいと思いますね」。
 真摯にそして真剣に。「いいもの」を作るための格闘が、今日も生産現場で行われている。

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