いわての新鮮力 盛岡市玉山区 米農家 高橋志洋(ゆきひろ)さん

 高校生のとき、父が農業法人「夢農業たかはし」を設立した。ここに卒業とともに“就職”して13年、高橋志洋さんは父の靜男(しずお)社長とともに事業の拡大と継続につとめてきた。「担い手を持つには給料を払えるようにしなくてはと父は農業法人を設立した。自分も、子ども達のために実績と資本をきちんと積み上げて就農をアピールしたいと思っています」。穏やかに、しかし次代のことを真摯に考えながら高橋さんは思いを語る。
 実際に「夢農業たかはし」の農業経営は、次のステージに移行しつつあるようだ。水稲を中心に拡大してきた作付け農地は今や20ヘクタールを越え、受託作業も同規模にまで増えた。ほか小麦や大豆、椎茸や野菜類もローテーション栽培し、6年程前からは餅やがんづきなど農産加工も手がけている。それでも、売上げの主体が米であるのは変わらないと高橋さん。「今の規模で品質や収益性を上げる方向にシフトしなくては」と、時には父と経営論を戦わせることもある。「父にも培ってきた自負と誇りがあるけれど、作業ロスや管理の仕方も含め自分の考えを理解してもらいたいんです」。米作りへの思いは人一倍大きい。
 そんな高橋さんは、米作りのスタイルは二つあるという。無農薬やアイガモ農法など栽培に手間ひまかけるか、規模を増やして価格を抑えた米を作るか。高橋さんが選んだ米作りは後者だが「収量を得るには逆に徹底した管理が必要になる」という。地力をつけるため有機質の堆肥はどんどん使っており、反対に除草剤散布は初期の1回だけ。どのタイミングで散布するかは、10数年の米づくりで見えてきた「田のクセ」で判断出来るという。有機堆肥でコストを抑え、薬剤もマニュアル以下の使用で済ませることで、結果的に安心・安全な米ができるのだ。「最低限の投資で最高の味」が、高橋さんの取り組む米作りなのである。

 昨年までJA新いわて青年部委員長をつとめていた高橋さん、今年度からは同JAの青年参与第一号になった。「祖父の時代に立ち上げたJAとの距離が、合併などによって孫世代の自分たちからは遠くなった。青年部活動を通してJAとの理解を深めていきたいし、何よりJAを盛り上げて地域農業を守っていきたい」。4月にはJAいわて中央青年部と連携して沿岸被災地への炊き出しに行くなど、大震災をきっかけに青年部の団結は確実に深まったという。「これからは、俺たちがツナギを来てスーパーに立とうじゃないか、なんて話し合ったり。今度は俺らが次の世代に繋ぐステップになります」と、朗らかに話す。
 最初の訪問からおよそ1ヶ月、稲刈りの時期に再び高橋さんの元を訪れた。9月22日の台風はここ玉山区にも大きな被害を及ぼしており、「夢農業たかはし」でも川沿いの田んぼ約5分の1が冠水した。「今年は作付けを多めにしていて、被災地支援米にもしようと思ってたんですけどね…」つぶやく高橋さんから悔しさが伝わってくる。それでも作柄はよく、9月20日から始まった稲刈りはおよそ1ヶ月にわたって行われる。

 「これが、今年の新米です」。手渡されたのは、一足先に収穫したあきたこまち。米袋はずっしりと重く、玉山区の風景イラストと「夢農業たかはし」の社名が入っている。「農業に『夢』を持って楽しく仕事をする…本当、いい社名だなあって思います」。試行錯誤を重ね、時に壁にぶつかりながらも農業の可能性と将来を信じ、高橋さんは仕事に取り組んでいる。

(取材日/平成23年8月23日、9月26日、取材・撮影/フリーライター 井上宏美)

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