いわての新鮮力 盛岡市 果樹栽培 藤村卓也さん

 まだ葉を茂らせた木々の向こう、はるか眼下を北上川が流れているのが見える。その周囲には田畑と盛岡の市街地が寄り添うようにして広がり、西方には奥羽山脈の山並みがくっきりと…。市街地から車で15分程の距離ながら、ここ手代森地区からの眺望は本当に素晴らしい。そんな絶好のロケーションの中で栽培されているのが、盛岡特産のリンゴ。「西向きの斜面なので一日中日が当たる。お陰で実割れも少なく、バランスのいいリンゴが出来るんです」と、この地で果樹栽培を行っている藤村卓也さんも品質の良さに胸を張る。盛岡市内でも指折りのビューポイント手代森は、盛岡を代表するリンゴの栽培適地でもあるのだ。

 夏の終わりの「さんさ」に始まり、「つがる」「ジョナゴールド」などから、晩秋から冬にかけては「ふじ」。次々と旬が巡ってくるリンゴに加え、ナシやメロンなども栽培する藤村家。地区内に果樹園は3カ所あり、家族4人で作業に従事している。「うちがリンゴ栽培を始めたのは40年近く前。最初の頃は米もある程度やっていて、稲刈りに連れてこられていた」と藤村さんは振り返る。高校2年のときには「農業をやろう」とはっきりと決意し、卒業後は農業短大へと進み果樹栽培を専攻。週2回の座学の合間に実家での実習を重ね、12年前に就農を果たした。「両親や祖父の働く姿を身近で見てきたから、跡を継ぐことに迷いはなかった」という。

 手代森をはじめ、盛岡市黒川や乙部、そして紫波町など北上川の東岸に連なる丘陵地帯は地質に恵まれており、「北上川の東岸の作物はおいしい」とも言われる地域。夏は暑く冬寒いという盆地特有の大きな寒暖差も、リンゴ栽培には適しているとされる。そんな“場の恵み”を存分に生かすのが藤村さんのリンゴ栽培。土には鶏糞や豚糞など有機堆肥を充分に投入し、果実には袋をかけず太陽光を存分に浴びさせる。減農薬・減化学肥料がポリシーだ。こうして育てたリンゴはJAに加え地域内5カ所の直売所にも出荷。配送は藤村さんの担当で、売り場の状況を見ながら適宜納品を行っている。現在の栽培本数はおよそ1万5千本で、生育期には薬剤散布や実の間引き作業も待ったなしである。それでも「量も品質も満足のいくリンゴが収穫できたときの喜びが、仕事へ向かう原動力になる」という。

 そういう意味では、今年の収穫は非常に厳しかった。リンゴは秋から冬にかけて一定の寒さに当たらないと花芽がつかないが、昨年秋の暑さが影響してか実の付きが非常に悪かったのである。「一番ひどいフジは、昨年に比べて終了が6割ぐらい減っている。だから今年は贈答用のフジが出せない」。淡々と語る藤村さんだが、落胆の深さはこちらにも伝わってきた。
 「来年に期待しないとね」。手塩にかけたフジを手に、来年を見据える藤村さん。再びの豊作を祈りながら、次のシーズンへの準備はもう始まっているのである。

(取材日/平成23年10月14日、取材・撮影/フリーライター 井上宏美)

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