いわての新鮮力 金ヶ崎町 稲作 阿部敬悦・久美子さんどんな客にも使いやすい土を作るのが信条だ


久美子さんは一昨年、東和町から嫁いできた


「収量を上げる工夫もしている」と阿部さん


容赦ない日差しのなか畦畔の草刈りは続く

 「米づくりは毎年違うから、去年と同じことをしていてはダメ。ただ自分と父親の見方の違いもあるし、いまは日々の中で精一杯やるだけです」。

 照りつける日差しの下、あぜの草刈りに精を出す阿部敬悦さん。その傍らで、妻の久美子さんが仕事を見守っている。手がける水稲は15町歩。先祖代々守り継いで来たこの土地で、父や母とともに汗を流すようになって10年ほどになる。それ以前は農機具メーカーに勤務し整備や修理で県南域を回っていたが、「いつかは俺が農業をやる気持ちでいた」という。そして認定農業者制度のスタート、さらに担い手の病気などで代替わりせざるを得なくなった農家を訪問先で何度も見るうち「親が元気なうちに仕事を覚えておきたい」と就農した。


苗床土は赤土に黒土をブレンドして作られる


苗床土の販売は20年ほど前から始まった


田植え後は、盆前まで土の粉砕が行われる

 米のほか、阿部家では「阿部農園製作所」として水稲用苗床土の販売も行っている。自宅から1キロほどの場所に培土プラントを確保しており、苗床土ほか育苗も行っている。需要期は田植え前の3月から4月までだが、培土の準備や調整など細かな作業は4月以降も続く。「農家にとって、その年いちばん最初の現金投資が『土』。それだけに失敗は許されない」と阿部さん。だが培土販売の仕事は顧客管理などの実務も多く、休日も顧客の注文に応対しなくてはならない。生産のみならず事業者として学ぶべきこともたくさんあるのだ。

 そんな阿部さんにはひとつの夢がある。この場所に、地域の農産物を味わうことのできる店を作ることだ。「うちの目の前を走るのは交通量の多い農免道路。けっして悪い場所ではない」と阿部さん。「TPP交渉を目前にしてただ米価に踊らされ続けていくより、『米』ではなく『食べ物』という付加価値をつけていく方法もあるはずだから」と冷静だ。その相棒が、奥様の久美子さん。「料理は今までやってきたけど、これからは自分が中心となってやっていかなくてはという気持ち」と、時間があるときには台所でさまざまな菓子作りに挑戦している。そんな姿に「彼女がいてくれたから生まれた夢なんですよ」と阿部さんは微笑む。


JAいわてふるさと青年部の阿部敬悦さん、久美子さんご夫婦


彩り鮮やかなホットケーキの試作品


食堂開店に向け試作を繰り返す久美子さん

 まさに夫唱婦随のふたりは、JA岩手ふるさとの青年部活動でもともに活動する。なんと久美子さんは同JA管内でも初めての女性青年部部員。「私も最初は青年部といえば男性と思ってましたけど、盟友には歓迎してもらえました」とにっこり笑う久美子さん。昨年までの委員長は退いたものの今なお中心メンバーとして忙しく活動する阿部さんとともに、今は金ヶ崎支部の幹事として青年部事業の運営にあたっているのだ。

 そんな二人にとって、昨年始めた青年部主催の合コン(仲間づくりイベント)は思い入れのあるイベントだ。会員はもちろん会員の奥さんも参加するかたちで、前沢・金ヶ崎・衣川・胆沢・水沢の全支部の合同で行った。「最近は従来のイベントには参加しない若い世代が増えていて、組織維持のために上の世代が奮闘している。それに全支部が集まる機会もなかったから、多くの人が楽しめるイベントを企画したかったんです」と阿部さん。間口の広いイベントを続けていくことで、青年部の中に新しい風が吹くことを願っている。

 阿部家の前庭には蔵がある。この2階を食堂に…というのが阿部さんと久美子さんの夢である。「まずは中を片付けないと」とふたりで笑うが、実現は遠い未来ではないと感じた。

(取材日/平成24年6月28日、取材・撮影/フリーライター 井上宏美)

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