いわての新鮮力 紫波町 米栽培 熊谷智昭さん紫波地域の若手生産者、熊谷智昭さん


野菜苗を自家生産。委託苗の出荷管理も行っている


トマト苗。3月のは種から段階を経て5月には出荷へ


アスパラには遮根シートを敷設、次の作物移行もスムーズ

 所有するハウスは11棟。米づくりをベースにこれらハウスの有効活用を目指し、熊谷智昭さんは農業経営に取り組んできた。

 「春の育苗が終わったら夏から秋まではハウストマトをやって、米の収穫後の冬期間は促成アスパラを作っている。もちろんハウスで育苗もやる。農作物を作る上で金がかかるのは、なんといってもタネや苗の代金だから」。

 就農する33歳までは会社勤めをしていた熊谷さん。それでも春と秋の繁忙期には休暇をもらい、農作業に取り組んでいた。「いずれは農業をやるつもりだったし、ある本に『33歳の時の仕事が一生の職業になる』と書いてあって、じゃあ俺は33歳で就農しようと決めていたんです」。紫波町でいち早く野菜栽培に取り組んだ父が好きなトマトに注力できるよう、米づくりを一手に引き受けた。同時に、冬場の収入源としてアスパラの導入を決めた。


将来的には外注用の育苗センターになる予定のハウス


1年性の促成アスパラの根。「出荷した分だけ売れる」と熊谷さん


水を張るため均平作業は慎重にしなくてなならない

 手がける田は、受託も含めて紫波町内におよそ10町歩余り。「それほど多くない」と熊谷さんは言うが、受託先の多くは住宅地や商業地に点在する3~4反程度の小規模な田ばかり。大型機械が入らず、品種によって刈り取り時期も違うため、常に効率のよい作業を考えて動かねばならない。自分の田で晩生のもち米「もち美人」を作っているのも受託田を優先しての結果だが、それでも「どんなに小さな田も切り捨てられない」と熊谷さん。依頼者の『土地を荒らしたくない』という思いは、熊谷さん自身の原動力でもあるからだ。「古い考え方かもしれない。でもやはり、自分の土地は自分で守りたい」。自分が根ざしてきた場所、代々受け継いできたものへの思いは人一倍強い。

 覚悟と展望を持って農業経営に取り組んで6年。冬場のアスパラは高い収益を維持し、自家生産の有機もち米にも取引先がついている。認定農業者にもなり、JAいわて中央青年部では紫波地域副支部長を努めるなど、熊谷さんの日々は公私ともに順調のように見える。その一方で農業経営の行く末の厳しさを、誰より冷静に見てもいる。そんな熊谷さんが考えている経営プランが、「育苗センター」と「ライスセンター」という米の調整施設作り。すでに取り組んできた育苗は委託量の増加に伴いハウスを新設し終え、今後は一定規模の乾燥機を備えたライスセンターの設置を目指している。「単なる生産者ではなく、米づくりの前段階から完全出荷まで出来るようになるのが目標。設置スペースも確保し内容も決めて、あとは資金の問題だけ」。笑いを交えつつ、着々と準備を進めているところだ。


有機肥料も入れて栽培した自家産のもち米


もち米部会員のための飯米「ひとめぼれも」作る


オリジナルの栽培法も試行。様々な農業資材を駆使

 「衣食住の中で『食』、つまり農業がなくなることは絶対にない」。熊谷さんの言葉に、力がこもる。だが農業者として経営を続けていくためには、常に“次の一手”を探し続けていかねばならない。「だからアンテナは高くしている」と熊谷さんはいう。米の調整施設作りしかり、紫波町でいち早く取り組んだ促成アスパラ栽培も、さらなる規模拡大に取り組んでいる。

 「自分自身と家族に、そして地域の人たちに安全と安心を提供していきたい」。食べ物だけではなく土地を守ることでも、熊谷さんはその情熱を体現し続けているのである。

(材日/平成25年4月20日、取材・撮影/フリーライター 井上宏美)

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