いわての新鮮力 奥州市江刺区 りんご栽培 佐藤秀幸さん江刺りんごの若手生産者、佐藤秀幸さん


佐藤家のりんご園。地域内に約3.5ヘクタールを有する


伊手地区にある農業用倉庫を選別作業場にしている


12月は主力のサンふじの選別と出荷が最盛期

 岩手を代表する農産物ブランド、江刺りんごの生産地である奥州市江刺区。北上川東岸の平場には広大な圃場が広がり、一方人首川や伊手川が流れ出る山間部でも、山裾に寄り添うようにして作られたりんご園が点在している。
「当然だけど、平場の愛宕(おだき)地区よりは山手の伊手地区は寒い分出荷時期が遅い。でも寒暖差のお陰で色づきもよくなるし、美味しさも申し分ないと思っている」。
 そう話す佐藤秀幸さんが手にしたサンふじとシナノゴールドの色艶たるや、まさに高級ブランド「江刺りんご」の名に相応しい見事な出来映えだ。天候に悩まされた平成25年、ここ山間部の伊手地区での管理はひとしお難しかったと思われるが、佐藤さん一家が営む「佐秀りんご園」のりんごは無事に収穫を終え、待ちわびる多くの顧客の元へと送られていった。
 佐藤さんの父・秀一さんが始めた佐秀りんご園は、確かな品質と味のよさで江刺りんごの人気を支えてきた。大学を卒業後、北上市の農業研究機関に勤務していた佐藤さんにとっても父のりんごは誇らしく、就農への誘いも自然に受け入れたという。だが収穫に合わせて家に戻った6年前の10月末は、運悪く台風襲来の時期。「落下被害もある中での収穫作業が最初の仕事。思えば大変な時期に就農したもの」と振り返って笑う。


保存、缶詰、ジュース用に選別。瞬時に見分ける秀一さん


蜜入りセンサーで1個1個計測。数値2以下は加工用に


贈答用りんご。選び抜かれたサンふじとシナノゴールド

 現在生産するのは、ふじやつがる、ジョナゴールドなど15種類以上。剪定、花摘み、摘果などの作業も父と分担してこなし、8月の盆あけからは出荷がはじまる。皮切りは、江刺で作られた新品種「紅ロマン」。「他のりんごがない時期に出回る品種だけど、糖度の見極めが難しくてここ2年は思うようにいっていない。ただ紅ロマンは今後、江刺の顔となっていくりんごになるのは間違いないと思う」。各地に続々とブランドりんごが登場している現在、新品種へかける地域の期待は大きい。
 それでもやはり、主力品種ふじは別格だ。降雪前に収穫を終えるのを大原則に、糖度が上がるギリギリまで木に残す。「取りたくなるところをグッとこらえて(収穫の)ゴーサインを出すのが親父。経験値が全く違うから」と佐藤さん。昨年は小玉ながら蜜入りもよく糖度の高いりんごが出来たが、天候不順で品質が大きく低下した一昨年はだいぶ廃棄したという。
「つらいけど、美味しくないものを売っても仕方ない。親父は作る人で1個1個愛情を持っているけど、自分は売る人だからよくないものは捨てられる。そこが大きく違うところ」。


「伊手産」と明記された箱。品質へのプライドが見える


販売は佐藤さんの担当。「今は1年1年りんごをどう売るかだけ」


父・秀一さんと。「おいしいりんごを作ればお客様は必ずついてくる」

 いいものをお客様に提供しなければーー。佐藤さんのその信念は、りんご産地・江刺の今後にも向かっている。JA江刺青年部役員として販促活動をする時、気がかりなのは品質のバラツキがあるかどうかという。伊手と愛宕のように、たとえ同じ江刺区内であっても成熟のタイミングは違うため、無理に出荷すれば当然、味や見栄えに差が出てしまうからだ。
「生産者として大事なのは意識。市場に間に合うように出すのではなく、本当に美味しいりんごを出すようにしないと。見栄えも味も『江刺りんご』の名に恥じないものを作りたい」。
 いかに作り、いかに売るか。父の秀一さんらが築き上げてきたブランドりんご産地の技術とプライドを受け継ぎ、佐藤さんら若手生産者の挑戦は続いていく。

(取材日/平成25年12月17日、取材・撮影/フリーライター 井上宏美)

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