いわての新鮮力 八幡平市 野菜栽培 田村真理子さんJA新いわて青年部本部委員初の女性盟友である田村真理子さん


ちぢみ小松菜のハウス。出荷は6月から翌年2月まで


小松菜専用の播種板。下のトレーに一気に種まきができる


播種後、トレーの448穴に種がきちんと入っているかを確認

 「昔から『自分が農業をやるのかな』っていう意識はあったけど、今までは言われたことをただやっていただけ。最近やっと、家や農業を受け継ぐことを意識しはじめたところです」。
 さりげなく結い上げた髪に、シンプルなポロシャツとチェックパンツ。胸元には大振りのペンダントが光り、メイクにも手抜きはない。お洒落なカフェのスタッフと間違えそうないでたちで、その口から出るのは骨太な、農業への思いとプライドだ。JA新いわて青年部本部委員初の女性盟友田村真理子さんは、今時の“農ガール”とは一線を画す、青年農業者なのである。
 農業高校を卒業し、短大では園芸を専攻した真理子さん。秋田県での生花店勤務を経て3年前に帰郷、「あくまでお手伝い」として農業に関わるようになった。父の道行さんは昭和50年に地域でいち早くハウスでの野菜栽培に取り組むなど、その後の八幡平市がほうれんそうの生産で全国トップに上りつめる礎を築いた農業人のひとり。現在は野菜生産部会長をつとめ、農業法人大更園芸生産組合のメンバーとしても忙しい日々を送っている。そんな、パイオニアである父から作業を通して農業を学ぶうち、真理子さんは自分に求められている『役割』を徐々に感じはじめたという。「私が父と家族とのパイプ役になっていること。そして父は、お手伝いではなく仕事のパートナーとして接してくれているのかなって」。単なる農業への興味から生産者としての自覚へ、真理子さんの気持ちは変化していった。


小松菜の幼苗。この状態でハウスに定植する


マルチ間の幅は細い。これも単収アップのための工夫


ちぢみ小松菜。茎は長く瑞々しく、葉の先が丸まっている

 野菜ほか花苗や切り花など多様な生産品目に取り組む田村家。家族一丸となっても、日々やることは山ほどある。「春から6月までは野菜苗で、6月から翌年2月までは小松菜のローテーション。10月からは菌床シイタケもあるし、米も3ヘクタール作っています。あと産直への出荷分も私の担当。休むヒマなんてありません」。忙しさの中に充実ぶりもうかがえる。
 なかでも真理子さんが今、一番情熱を傾けているのが小松菜の新品種、ちぢみ小松菜の栽培だ。ちぢみ菜と小松菜の掛け合わせで、水分が多くシャキシャキとしえぐみも少ない優良品種だが、生産者が少なく地元に出回る量は非常に少ない。「もっと販路開拓して、食べられる場所や買える場所を増やしたい」という真理子さんは、栽培に取り組むかたわら収量を増やす工夫を重ねる。収穫回数を増やすため移植栽培とし、さらに専用の播種板を導入して植えムラを極力減らすようにした。大敵の虫害対策にはハウス外周に防虫ネットを張り、培地も全面マルチにするという徹底ぶり。一方で土にこだわり、有機肥料を主体にした減農薬栽培に取り組む。成果は確実に上がっているが、「実は移植じゃなく直播きで回転させられないかを検討中」と真理子さん。播種板での種まきでは目測で種を確認する必要があり、その労力たるや素人目に見ても気が遠くなる。「収量を得つつも時間に余裕のある、そういう農業経営に持っていきたいんです」。表情が、ぐっと引き締まる。


地域ブランド野菜として「八幡平ちぢみ」とネーミングされた


産直出荷の野菜や花のハウス。珍しい品種を選んでいる


星型などのきゅうりケースに入れて栽培、付加価値をつける

 青年部では県大会や東北大会へ出席、女性ということで注目されるが「女性がどんどん出てこられるようにするのも私の役目」と真理子さん。「農業に必要なのは女の人の感性や売り方、見せ方。女の人が元気じゃないと農業も元気じゃないでしょう。そのためには、農業をやっててもお洒落はできるってことも伝えたい」。加えて経営者たる青年経営者との交流は得るものも多く、とても楽しいと笑う。この春からは県やJAいわてグループが主催する「いわてアグリフロンティアスクール」にも入学し、本格的に農業経営を学びはじめている。
 産直出荷のほか盛岡や東京の飲食店など販路も広がっており、「正直、手いっぱい」と真理子さん。それでも「きちんとメイクして配達にも行きますよ」と微笑む。女性であることを楽しみつつ、女性にしかできないやり方で、青年農業者としての経営モデルを築き上げつつある。

(取材日/平成26年6月28日、取材・撮影/フリーライター 井上宏美)

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