いわての新鮮力 紫波町 りんご栽培 勝木宙さん埼玉県出身、りんご農家として独立した勝木宙さん


ほ場内には樹齢40、50年の老木も。枝振りに驚く


シナノゴールド。仕立て方で実のつき方も変わってくる


農業経験ゼロから2年間の研修期間で栽培の基本を学んだ

 「まさか自分がりんご農家になるとは思わなかった…」。目深に被った帽子の下で、勝木宙さんがつぶやく。管理するりんご畑は約1.1ヘクタールという広さ。きおうにつがる、王林、シナノゴールドにフジなど主力品種が植えられており、季節ごとの作業に忙しい。しかしほんの3年前まで、こんな日々が来ることを勝木さんは想像もしていなかった。
 勝木さんは埼玉県出身。ここ岩手には写真を通じて出会った友人を訪ね何度か訪れており、4年前には盛岡で共同写真展を開いたこともある。「だからといって特別『岩手に来たい!』というのはなかった。ただサラリーマンと違い食べ物をつくるのは世の中から絶対になくならない仕事だと思ったし、それなら続けられるかなって」。その頃、紫波町のりんご農家が後継者を募集していることを知る。自宅を訪ねた勝木さんに所有者は「実家が埼玉なのに岩手でやるのか」と聞いたという。勝木さんの返事は「やります」。気負いはなかった。


これからは「葉とらずりんご」を増やしていくのが目標


収穫最盛期。葉摘みや玉回しでりんごを仕上げていく


「写真を撮られるのは苦手」。黙々と作業を続ける

 だがいきなりりんご栽培など出来るわけがなく、2年間は研修期間。実際の作業を手伝いながら技術習得に明け暮れた。2月からはじまる剪定、4月初旬になれば病害虫駆除や伐採などの作業がある。5月には花芽摘みをし夏前には無駄な枝切りなどもこなし、そして8月末からはもう早生りんごの収穫だ。まいったのは岩手の寒さと、生産者ごとに管理の仕方が違うこと。「自分が仕立てたら絶対こうならないという枝の出し方をしている。結局は経験則で、基本はあってもそれにとらわれることはないんですよ」。学び、そして自分なりのりんご作りについても考えてきた。2度の収穫を経験し、今年4月、ついに独り立ちをした。


9月から作業の手伝いに来ている中村彬さん(左)と


出荷先はJAが中心。「直販も増やしてきたい」ですね


今年の8月にも、盛岡で仲間たちと写真展を開いた

 3年目の収穫の季節、勝木さんの畑には収穫の手伝いに友人の中村彬さんがやって来ていた。関東出身で「こんなにたわわに実っているりんごは見たことがない」と驚く中村さん、確かに中手種が終わりフジの収穫を控えたこの季節は、りんご畑がもっとも充実する時期だ。「9月の中盤にヒョウが降ったけど被害は少なく出来もまあまあ。ここはフジが中心なので善し悪しは直接収入に響きます」と勝木さん。出荷先はJAがメインだが、さらに販路を広げていくべく取り組んでいるのが「葉とらずりんご」の面積を増やすこと。光合成を行う葉を取らないため糖度は上がるのだが、着色管理が難しく農家泣かせの方法である。だが「作りやすさや見た目の良さではなく、食べる人のことを考えたりんごを作りたいから」と勝木さん。「農家出身じゃないからそう思うのかも」と続ける。周囲には勝木さんと同じように県外から来たり、異業種から農業に飛び込んだ若手生産者もいるという。JAいわて中央青年部にも参加しており、そのネットワークを通じて知りえたさまざまな仲間の存在や活躍もまた、自分なりのやり方で農業を続けていく原動力になっているのかもしれない。

 岩手にやって来た当初、りんごや米の美味しさに感動したという勝木さん。産地でしか味わえない「本物の味」を、首都圏の本物志向の消費者に販売していくのも目標のひとつだ。「研修も終えた今は給料もない。正直、怖いですよ。でもきっと(りんご栽培を)続けていくと思う」。

(取材日/平成26年10月8日、取材・撮影/フリーライター 井上宏美)

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