奥州市衣川区 稲作・野菜 鈴木利幸さんJA岩手ふるさと衣川支部の青年部委員長 鈴木利幸さん


奥羽山脈から流れ出る豊かな水


作る苗はひとめぼれ。地域の米づくりを支える


母屋の横の作業小屋。春の種まきもここで

 衣川の支流である北股川に沿って集落が点在する奥州市衣川区懸田。周囲を取り囲む山裾に、住まいと耕地が身を寄せ合うようにして並んでいる。「この辺りの田んぼの広さはせいぜい2アール程度。乗用7条(田植機)は入るけど、田が点在しているので陸送させる手間がかかりますね」。土煙を上げて田の中を動くコンバインを眺めながら鈴木利幸さんが話す。確かに平場の圃場とは比べようもない作業効率だが、ここは集落のほとんどが米の栽培を手がける、昔からの“稲作地帯”でもあるともいう。「衣川の米には水分や粘りがある気もする…」。控えめではあるが、この地の米の質の良さも鈴木さんは十分に知っているようだ。昨年からJA岩手ふるさと衣川支部の青年部委員長にも就任、盟友13人とともに地域農業を担う一人として動き始めている。


導入した乾燥機は2台。精米も行っている


4棟のハウスで約7ヘクタール分の苗を作る


周囲を森に囲まれ、川沿いに開けた田のひとつ

 米作りを中心に、露地とハウスあわせて3ヘクタールのピーマンも手がける鈴木さん。平日は会社に勤め、農作業は土日の休みに行う兼業である。もともと家業を継ぐという明確な意志はなかったというが、就職した後も農繁期には農作業を手伝うのが当然だった。「田植え後の6月から7月にはピーマンの定植。その後は除草剤の散布などをやって、8月からはピーマンの最盛期で…」。農業の段取りをつけながら会社での仕事の調整をする慌ただしい日々ながら、「農業は続けていきたい」と鈴木さんはきっぱり言う。

 その一方で、昨今の米価下落などの厳しい現実にも向き合っている。「市場(出荷)だけではなく直販もやりながら、というやり方がいいのか。いずれその時が来たら、きちんと考えなくてはいけない」。淡々と話すが、もちろん“先手”は打っている。ひとつは水稲苗の育苗と販売で、地域内で使う7ヘクタール分の苗を手がけている。地域内にはほかに2軒の育苗生産者がいるといい、文字通り地域農業の支え手といえるだろう。また10年ほど前には米の乾燥機を自宅に導入、他農家の米も保管と精米も引き受けている。これも米から収益を上げるための工夫のひとつである。


陸送に使われる畦畔道は車1台がやっと通れるほど


地域は北股川沿いの河岸段丘に位置する


昨年収穫したひとめぼれ。自慢の米だ

 米作り農家の多い衣川地域、青年部の盟友との交流でも今後のことに話が及ぶ。選択肢のひとつは農業生産法人を立ち上げるなどして農地を集約することだが、「衣川でそれができるかどうか」と鈴木さん。山間部に小さな田が点在するこの地では、ほ場の区画整理面積やそれに伴う作業効率の省力化など、平場とは違う問題点が浮かび上がってくる。

 鈴木さんはいう。「兼業のメリットは一定収入を得ながら農業をやれること。天候や日時の制約で作業がはかどらないこともあるけど、家族の協力があるからできる」。そこには、地域の軸となる農業を守るための「兼業農家」という姿が浮かび上がってくる。

 「自分で作った米のうまさ、自分で作るからこその安心感は何物にも代え難い」と鈴木さん。そんな生産者の思いやメッセージが、消費者側にも広がっていくことを願う。

(取材日/平成27年4月26日、取材・撮影/フリーライター 井上宏美)

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