奥州市江刺区 トマト栽培 吉田雄次郎さんJAいわて江刺青年部、吉田雄次郎さん


地区の先輩トマト農家の指導を受けながら8アールを栽培


ハウスは周囲を山に囲まれる。風の強い地域だ


父は野菜栽培の先輩であり頼もしい協力者でもある

 奥州市北東部、奥羽山脈に抱かれるようにして民家が点在する江刺区米里笹ノ田地区。標高約300メートル、気温は平地と比べて2~3度は低く、時に遠野や花巻の平野を吹き抜けた風が山を越えて吹き下ろしてくる。「実は昨日の強風で、ハウスのひとつが飛ばされて。これから片付けです」。大きな被害ではあるが、話す吉田雄次郎さんに大きな落胆は見られない。高所寒冷地というハンデを引き受けた上でこの地で農業を受け継ぐことを決意し、2015年春、トマト栽培をスタートさせたのである。

 「農業は、きついし汚いしもうからない」。家業を身近で見聞きしてきたがゆえ、そんなイメージを抱いていたという吉田さん。就職も神奈川県の石油化学メーカーと、農業とはまったく別の道を歩もうとしていた。だが、テレビで千葉県の農業生産法人の事業展開と戦略を見たことで意識が変わる。「やり方はいくらでもあり、稼ごうと思えば稼げる。農業って面白いのかも…と思ったんです。親にも『本気ならやってみればいい』といわれ、24歳で江刺に戻ってきました」。志があるとはいえゼロからのスタート、吉田さんは知人の紹介で地元でトマトや根菜類の栽培に取り組む農家で研修することに。1年かけ、種まきから定植、管理までの一通りを学んだ。作業はもちろん品目の選定や戦略、販売方法などに話が及ぶこともあり、「夢を持って(農業を)やった方がいい」と いう言葉は、今の吉田さんを支えている。


株の状態を見極めて水や追肥を行うのが難しいとも


トマトは9月の段階で13段目。出荷は10月末を目標


果形が安定した「りんか409」をメインに3品種を栽培

 県内でも屈指の農業生産地・江刺区。主力品目のひとつトマトは市場評価も非常に高く、高値で売買されている。しかし近年は高齢化などにより、栽培規模が縮小傾向にあるという。「それに歯止めをかけたい。販売実績はもちろん生産地域としてのプライドを守り抜きたいんです」。初めて自力での栽培に取り組んだ今年、吉田さんは全3棟のハウスに出荷時期や実持ち、食味等を考慮して3品種のトマトを定植した。6月からは出荷もスタート、虫害などの発生もあったが、トマトの形や太り方はおおむね良く、5割以上がA品として出荷できた。しかし「ただ経験したというだけ。自分なりに出来たという実感はない」と吉田さんはあくまで厳しい。JA江刺や農業改良普及所、トマト部会の先輩たちのサポートで収穫できただけだと続ける。


手塩にかけたトマト。収穫終盤でも空洞化は少ない良品


冬には空いたハウスで春菊やホウレンソウを栽培する


今年はハウス毎に600本・500本・400本を定植した

 農業1年目、試行錯誤は当然である。その一方で「今はとても充実している」とも吉田さん。ものをつくること、成果が収入という数字になって返ってくること、そして農業を通して多くの人と出会い、江刺がさらに好きになったなど、得たものはとても大きいという。「夏にJA江刺青年部の活動で盛岡のスーパーでトマトの試食販売を行った時、たくさんの人に『甘い』『美味しい』と喜んでもらったんです。ああ、江刺でトマトを作っていることに間違いなかったと感じましたね」。

 自身の作成した農業計画では、5年後には経営委譲を行うことになっている。「それまでには現在の8アールから30アールに農地を増やし、売上も1000万円を目指します。手始めに来年にはハウスを3棟新設しますが、そのタイミングで雇用も考えたいと思っています」。規模拡大と人材確保はセットで考えるべきものであるという吉田さん、その頭の中にはすでに10年、20年先の経営ビジョンが描かれているのだ。

 「農業は地域を守るだけではなく、新たな人をこの地に呼び込むきっかけにもなりうる。だからこそ自分が規模を拡大して、周りに『農業は稼げるんだ』ということを伝えていきたいんです」。今まさに、大きな夢への一歩を踏み出した、吉田さんである。

(取材日/平成27年9月10日、取材・撮影/フリーライター 井上宏美)

インデックスページへ戻る