沢内地区で進む水田基盤整備。約80ヘクタールが整備予定髙橋真悟さん。法人が所有する汎用コンバインの前で


農業機械を紹介した業者もアースコネクトのよき協力者


大型のコンバインが畑を縦横無尽に走り回る。あっという間だ


転作大豆は地元の産業公社や飲食店などに出荷される


「平成28年、県央では大豆の粒が小さかったんです」と髙橋さん

 晴れ渡った晩秋の空の下、大型コンバインが土煙を立てながら畑を突き進んでいく。巨大な回転リールで刈り取られていくのは、カラカラに乾燥した大豆だ。その作業を間近で見守っているのは、農業生産法人アースコネクトのメンバー。西和賀町では2例目となる法人として平成28年1月に沢内地区太田集落の生産者が設立、受託を含め約70ヘクタールの水田と大豆などの畑を管理している。

「うちでは米を主体に転作大豆と、そば、加工用レタスも手がけています。さらにりんどうも30アールほど栽培しています。ほとんどがメンバー持ち寄りのほ場なのですが、ここ沢内地区のような中山間地では比較的大きな法人と言われていますね」。

 作業を見守っている一人、髙橋真悟さんが話す。彼を中心に30代の「息子世代」4人と60代の「親世代」3人が協力して農業法人の経営を担っている。農業を志した時から「いつかは法人を作りたいと考えていた」という髙橋さん、就農8年目にして夢を実現した。しかし道のりは平坦ではなく、メンバーとの協議には1年をかけたという。設立の原動力は、28年度から始まった地域の水田基盤整備。西和賀町では実に40年ぶりの事業であり、髙橋さんの父親らが息子たちのため奔走して実現したものだ。「親世代が整えてくれた『基盤』で、自分たち若手が新しい栽培管理や肥培管理など『技術』を導入して次の世代に繋げていく。法人を通し、そんな環境づくりをしていきたいと考えているんです」と、言葉にも力がこもる。


アースコネクトのメンバー。左から、阿部隼人さん、髙橋さん、髙橋裕之さん


機械投資はおよそ3500万円。いいものを作れば売れると確信


コネクトは「繋がる」という意味。地域、人、大地…あらゆる繋がりが

 農業法人の経営者として、またJA岩手県青年組織協議会の会長として県内青年部を取りまとめる髙橋真悟さんだが、大学では老人福祉を専攻し卒業後は宮城県の医療福祉法人に就職。「農業をやるつもりはまったくなかった」と振り返る。しかし結婚して子どもを授かったことで心境が変化したという。

「ちょうどその頃、食品偽装のニュースが世間を騒がせていた。農家出身の自分なら、自らの手で安心安全な食べ物をつくることが出来る。それを仕事にするのは、とても魅力的なことだと気づいたんです」。

 30歳で帰郷、両親の下でいちから農業を学びはじめる。仕事の流れや作業のやり方は徐々に覚えられたが、農業者としての矜持は人から教えられるものではない。そこで髙橋さんが飛び込んだのが青年部活動。生産品目、年齢や地域の違い、何より多様な“農業スピリット”を持つ人たちの中で、「テングになりかけている鼻をへし折られるようなこともあった」と笑う。仕事の意義を知り、価値観を共有するなど数々の得難い経験の先に、農業法人設立というチャレンジが用意されていたといえるかもしれない。

 法人を設立して1年あまりだが、生産品の全量出荷を果たすなど経営は順調だ。しかし「国の示す方向性では米の消費量の伸びが見えにくい」と髙橋さん。大豆やソバ、りんどうを手がけるのも自分たちなりの農業経営を模索しているからであり、今後は子実とうもろこしの導入を検討中。「青年部で繋がった仲間との循環型農業という違った形の展開が出来るかもしれない」と可能性を描いている。

「人の活力の基本になる、安心で安全な食べ物を消費者に提供しなくてはならないという『使命』を担うのが農業者。営農でも兼業でもどんな形であれ、農業を通して社会に貢献するという目的は変わらないと思います。大事なのは自分の意志を貫くことです」。

多くの仲間とともに、これからの農業の在り方を探り続ける髙橋さんである。

(取材日/平成28年10月25日、取材・撮影/フリーライター 井上宏美)

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