まさに夫唱婦随。砂子進吉さんと千恵子さん

いわての底ぢから

第6回大船渡市 砂子進吉さん


日頃市に立つシイタケハウス。砂子さんは2棟を使用


収穫後すぐにパック詰め。東京へも出荷される


ホダから発生したシイタケ

 ハウスの中で菌床からニョキリと顔を出したシイタケ。ふっくらと肉厚で、見るからに美味しそうである。それをハサミでひとつひとつ、砂子進吉さんは根元から切り取っていく。「このホダは大きいけど壊れやすいんでハサミを使う。以前使ってたのは、手でもぐことができたけどね」。ホダ玉(菌床)の種類、給水の仕方など、今までのやり方は全部、新しいハウスには応用できなかった。それでも砂子さんは、シイタケ栽培が再開できたことを喜んでいる。
 砂子さんは以前、大船渡市三陸町でシイタケ栽培を手がけていた。ハウスは越喜来地区の浦浜川沿いにあり、妻の千恵子さんと二人三脚で仕事に明け暮れた。「1日24時間のうち18時間はシイタケの手入れ。朝と夕方の2回摘み取りをして、家には寝に帰るぐらい。一時は50坪のハウスで、年間16トンぐらい栽培していた」。県内屈指の菌床シイタケ産地として知られていた三陸町で、砂子さんのシイタケは量・品質ともに評判の品だった。
 2011年3月11日の午後もまた、砂子さん夫婦はハウスにいた。ちょうど、1月末に入れていたホダ玉1万2600株の収穫時間。「今度のホダはよく出てくる、なんて言っていた時に地震がきた。ホダが全部落ちてきて、ハウスのドアもはずれて。作業場にも戻れず、そのまま車で高台へ避難したんです」。間もなく、渦を巻いて押し寄せてきた津波は堤防を破壊し、漁船を根こそぎさらっていった。海岸から200mしか離れておらず、しかも浦浜川のそばにあった砂子さんのハウスなどひとたまりもない。夕方戻ったふたりが見たのは、頑強な鉄骨の骨組すら跡形もなく流され、コンクリートの基礎があらわになったハウス跡だった。


ひとつひとつ、ハサミで切り取っていく


作業はいつもふたりで。三陸町の頃から変わらない


千恵子さん。「シイタケのカツ丼も美味しいのよ」

 それでも砂子さんは直後から、シイタケ栽培の再開を決めていた。「1年だけ他で食いつないで何とか再開するべし!」と、綾里でシイタケをやってる先輩と話していた。でも先輩はその後膵臓ガンが見つかって、たった3ヶ月で亡くなってしまった。支えあった仲間の意志も引き継いで、砂子さんは再開に向け奔走する。そして今年3月、JAおおふなとが復興対策事業として市内日頃市地区に建設したハウスに入居、栽培をスタートしたのである。
 日頃市のハウスでは培地の種菌を変え、給水も三陸町でやっていた散水から浸水方式に切り替えた。栽培環境はもちろん種菌や管理法まで違うとくれば、どんなベテランでもとまどいがあって当然で、「内陸へ研修にも行ったけどまだまだ勉強中」と砂子さんもいう。現在のルーティンは朝6時に摘み取りを行い、7時から出荷準備。夕方の作業は5時から6時頃に行うが、砂子さんはその間もほとんどハウスに張りついて、ホダの世話に時間を費やす。温度管理の行き届いた最新のハウスでも、ホダの天地替えや給水は人の手で行わなければならない。ハウス2棟合わせて1万株を超えるホダ玉の世話を、夫婦ふたりで行っている。


カサはもちろん軸の太さもA品の条件になる


カサの色も評価基準。白いものだけがA品に


綿毛のような繊維に包まれた、見事なシイタケ

 手塩にかけて育てたぶん、摘み取りにも心を配る。ハサミでパチンパチンと切ったシイタケは、セイロにひとつずつ並べていくのが砂子さんのこだわりだ。「ポンポン投げ入れると傷がつく。もっと適当にすればいいのにとも言われるが、これだけは譲れない」。そう言いつつ、並べながらA品だけを素早く見分けていく。「A品の条件は、形が丸くてカサが開いていないもの。うちはちょっとでもカサが開いていたらAでは出さない」。そうやって、徹底して選び抜いたシイタケが整然とセイロに並ぶ。肉厚で大きく、本当に素晴らしいシイタケだ。
 ハウスに入居間もない3月には一気に発生したシイタケも、それ以降はバラツキがあった。どうやら日頃市へ運搬中の車の振動で発生が促されたのだと砂子さんは言うが、以前のホダ玉とは品質が違うことも無関係ではないだろう。試行錯誤の中での初出荷はたったひとケースにとどまったが、品質は上から3番目のAM。通常の2倍近い高値で取り引きされた。
 「シイタケも酸素を吸って二酸化炭素をはく。動物と同じさ。だから毎日様子を見て空気も入れ替えてあげないと」。震災をきっかけに環境もやり方も変えざるを得なかったが、砂子さん夫婦のシイタケ栽培への情熱だけは、少しも変わっていないのである。

(取材日/平成25年7月8日、取材・撮影/フリーライター 井上宏美)


傷をつけないようにきっちりとセイロに並べていく


第一のハウスには5200株のホダが入っている


6000株が入る第2ハウスは栽培条件を変えて管理


ホダの大きさは3kg。三陸町では1kgのホダだった

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