「ひころいちファーム麺工房」代表の村上一憲さん、奥様の真由美さん

いわての底ぢから

第7回陸前高田市 村上一憲さん


この製麺機との出会いから新事業が始まった


麺の形状を決める口金。最も難しいのは極太麺とか


パートも頼んでいるが基本は夫婦ふたりで行う

 「とにかく必死で走り抜けてきた。障害は多かったけど、諦めない自信だけはあった」。
 陸前高田市米崎町。10月に完成したばかりの新工場で、「ひころいちファーム麺工房」代表の村上一憲さんがいう。作るのは、自家生産の米を100パーセント使用した十割米粉麺。程よい歯応えと米の香りが楽しめると、産直やイベント販売で評判の品である。この味を見出すまで、なにより工房を始めるまでいくつもの壁が立ちはだかった。それでも村上さんは「これからも米粉麺だけでやっていく」と決意する。農業のため、陸前高田のために。
 いつかは自分の手で米粉麺を作ってみたいー。2010年に脱サラして受け継いだ米作りに、村上さんはそんな夢を描くようになっていた。田畑は大船渡市日頃市町と米崎町合わせて約1町歩(約1万平方メートル)あり、以前から自家産米を委託して製麺加工していたからだ。だが夢の実現を前に、あの東日本大震災が起きる。高田町にあった村上さんの自宅そして米崎町の田畑もすべて流出し、米や野菜の売り先だった産直までも失ってしまった。


その日の温度、湿度を加味して作られる米粉麺


袋詰めも一つひとつ確認しながら手作業で行う


1食分は120グラム。賞味期限は冷蔵で10日間

 再開のきっかけは、農業雑誌で見つけた製麺メーカーの広告だった。「米粉麺を作りたいという思いを電話で伝えたら、すぐにメーカーの社長自ら製麺機を積んでやってきた。同じ頃に農業改良普及員から津波被災者対象の補助事業の話を聞き応募したところ、事業が採択されたんです」。震災から5ヶ月後の2011年8月、村上さんは一歩を踏み出した。
 踏み出しはしたものの、その歩みは順調ではなかった。まず立ちはだかったのは事業用地の確保。圧倒的な土地不足のため、用地の地主から契約キャンセルを受けることなんと3回。やっと米崎に土地を見つけても、今度は建設資金がない。わずか4坪の平屋の中古プレハブに製麺機1台だけ持ち込んで、「ひころいちファーム麺工房」は始まったのである。
 米粉麺の質についても村上さんは試行錯誤した。「日持ちがせず切れやすいという、これまでの米粉麺のイメージを覆す商品を作らなければ生き残れない。米粉のブレンド比率やパッケージ、麺の形状などあらゆる試行を繰り返しました」。第一弾の商品は2011年9月に発売し、現在は中太麺・平麺・極細麺・極太麺・ワンタンの5種類を製造。技術研鑽の結果、冷蔵で10日間という品質を確立したが「工場環境が向上したので、賞味期限はもう少し伸ばせるようになる」と村上さん。いいものを作るため、今なお工夫は続けている。


食感や弾力を得るために米粉の粒状も試行錯誤


自家産米は、出穂期のみ施肥する農法で栽培


会場内のブースにて。米粉麺の焼きそばに興味津々

 2012年4月には、陸前高田市の味噌・醤油醸造会社「八木澤商店」と組んで特製の肉味噌を開発。茹でた米粉麺に肉味噌とキャベツや卵を絡めて食べる「秘伝肉みそヌードル」を発表した。さらに2013年8月には花鰹や目玉焼きを乗せた「ばばば麺」も開発、大船渡市で開催されたB級グルメグランプリにおいて第3位に輝いたのである。「切れにくい麺は出来た。あとはそれを、どういう味つけで食べてもらうかを考えてきた」と村上さんはいう。
 そして2013年11月、市内の高田一中仮設グランドで開かれた「陸前高田市産業まつり」のひころいちファーム麺工房テントには「ばばば麺」と並び、新作「焼きそ米(やきそべー)」が登場した。キャベツや豚肉と炒めた焼きそば風メニューだが、実は茹でた米粉麺は炒めるとフライパンにこびりつく欠点がある。その問題を克服したのがひころいちファームの「焼きそ米」であり、来春までには焼きそば用の米粉麺も発売するという。「スープ麺かパスタにしか向かないとされていた米粉麺の概念も覆せたと思う」。村上さんの言葉にも力がこもる。野菜の出荷先であるJAおおふなとも「今まで以上に繋がりを大事にしつつ、加工分野でも協力できることがあれば」と、バックアップ体制で臨んでいる。
 新工場の横に置かれたプレハブの“旧工場”には、今年秋に収穫したひとめぼれの米袋が積まれていた。「米粉麺がうどんやそばと違うのは、原料を100パーセント国内で調達できること。ここにあるのは自家産米だけど、足りなくなったら気仙管内の米を使うつもりです。地域で手に入る原料で、美味しくて『これが米粉?』と驚くような商品を作っていきたい」。
 農業そして陸前高田のため。走り続ける先に見えるのは、復興という名のゴールである。

(取材日/平成25年10月30日・11月3日、取材・撮影/フリーライター 井上宏美)


11月2日、3日に行われた「陸前高田市産業まつり」


炒め野菜と肉、米粉麺の香ばしさが際立つ「焼きそ米」


たこ焼きやお好み焼きをヒントに作った「ばばば麺」


つるりとした喉ごし。普通の焼きそばと変わらぬ美味しさ

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