竹野牧子さん。JA新いわて女性部の副部長と宮古支部長をつとめる

いわての底ぢから

第10回宮古市 豆っこ工房 竹野牧子さん


竹野さんの「豆っこ工房」の味噌。なあど産直で購入可能


大豆を蒸し煮にするための圧力鍋。1回に6kgの豆を蒸す


使う麹の量も多いため、一度に炊く米の量は20kg

 わずか4.5坪の小さな工房で、竹野牧子さんは年間およそ1トンもの味噌を仕込む。今年1月から4月までの3ヶ月間で仕込んだ味噌は、すでに約600キロ。残りも、農作業がいよいよ忙しくなる5月頃までには仕込み終えてしまうという。6キロ炊きの圧力鍋で1日に3度も4度も豆を蒸し、自家製麹と混ぜて樽に仕込んでいく。一人での作業はけして楽ではない。
「でも味噌を買ってくれる人が『あんたの味噌で作ったみそ汁が一番』と言ってくれるのが嬉しい。これからも、美味しいと言ってくれる人たちのために味噌を作っていこうと思う」。額の汗の下、満面の笑顔が輝いている。
 平成23年3月12日。この日は、竹野さんの工房「豆っこ工房」の記念日になるはずだった。前年の3月に完成した加工場で最初に仕込んだ味噌が1年の熟成を経て、「道の駅みやこ」内の産直「シートピアなあど」で初めて販売される日だったからだ。だが販売前日の3月11日、マグニチュード9.0の巨大地震と大津波が三陸を襲う。東日本大震災である。
「12時頃まで『なあど』で翌日からの販売の相談をして、自宅に戻って役場の人と打ち合わせをしている最中でした。工房は無事だったけど電気も水道も止まり、出荷する予定だった味噌は避難所や仮設住宅など持っていける場所に配り歩きましたね」。


手づくりの平台に飯米を広げ、手早く種菌をつけていく


完成した麹。すぐ使わない場合は塩と混ぜて「塩切り麹」にする


この日使用したのはナンブシロメ。一晩浸水させたもの

 味噌工房を作るきっかけは平成20年、野菜ソムリエ講座で知り合った農業改良普及センターの友人から、家族経営協定を結ぶことと加工場を建てるための行政支援があることを教えられたからだ。郷里に戻って取り組みはじめていた大豆づくりと、以前から覚えのあった自家用の味噌づくりを「仕事」にするチャンスに竹野さんは奮起。各地の加工場を視察し、当時認定制度が始まったばかりの味噌ソムリエの資格も取得した。そんな風に万全の準備を経ていたからこそ、震災でも思いは挫けなかった。7月には復興イベントへと出店し、その後は市内の産直店などへ直接交渉して味噌の販売先を開拓していった。
 竹野さんの味噌は、すべてが自家製だ。麹用の米は工房メンバーの米農家が作るあきたこまち。蒸し器で仕上げた飯を平台にあけ、もうもうと湯気があがるところに手早く種菌をふりかけていく。均質に混ざったら保温機に移し、およそ2日間かけて麹が出来る。大豆は自家栽培で、ナンブシロメのほか甘みとコクのある品種「秘伝」も使う。圧力鍋で煮た豆を使うのは、「普通に煮るより豆の甘みが増すから」と竹野さん。調理時間は短くて済むが、繊細な圧力の加減を見るため作業はつきっきりになってしまう。


煮豆をチョッパーで砕き、麹と合わせて撹拌する


豆を圧力鍋に入れる。圧力計を見ながら45分ほどで完成


先日、完成したばかりの味噌。色白な仕上がりだ

 豆が煮上がったら、いよいよ麹と混ぜ合わせる。豆と麹の量は同量で、塩分濃度が控えめなのが竹野さんの味噌。「昔は味噌はしょっぱくて当たり前だったけど、それじゃあ体によくないと思うし。確かに長期保存には向いていないけど、麹を増やしたり塩を控えめにしたぶん旨味があると思いますよ」。初めて味噌を買った人が「ダシを入れているのか」と訊ねたというのも頷けるほど、竹野さんの味噌には深みがある。
 昨年7月には、津波で甚大な被害を受けた「道の駅みやこ」が再開し、施設内の産直で竹野さんの味噌の取り扱いも始まった。「施設のそばの鍬ヶ崎地区に人がいなくなったこともあって正直売上は芳しくない。それでもみんな本当に明るいのよ」。2年4ヶ月もの間、商いと交流の場を待ちわびていた人々の思いは、もはや少々のことではへこたれない。それに、と竹野さんは続ける。
「農家には野菜を作って食べる人に届ける役目がある。震災をきっかけに縮小したりやめてしまっては、困る人だってたくさんいるでしょう。買ってくれる人に提供するのも、支援のひとつだと思うんです。些細なことかもしれないけど、私に出来ることをやっていきますよ」。
 いつか「宮古の塩」を使って地元産100%の味噌を作るのも、竹野さんの夢のひとつだ。

(取材日/平成26年4月16日・4月23日 取材・撮影/フリーライター 井上宏美)


味噌は樽に入れて貯蔵庫へ。1年をかけて熟成させる


味噌ソムリエの認定証。「知識が深まり、自信もつきました」


組合の産直は2カ所。市内にある「なあど産直中央通店」


約1.2haの農地でネギやレタスなど野菜も栽培している

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