「だぁすこ沿岸店」沿岸産直部会会長の東梅康悦さん

いわての底ぢから

第14回JAいわて花巻
母ちゃんハウスだぁすこ沿岸店


町やJAグループなど様々な支援で完成した大槌町沿岸営農拠点センター


売り場面積は203平方メートル。大槌の農林水産物が揃う


食堂のテーブルとイスは大槌の川を遡るサケをイメージ

 跡形もなく流された大地に、重機の音が響き渡る。沿岸市町村の中でも東日本大震災による被害がことさら甚大だった町のひとつ、大槌町。復興への基盤整備事業が少しずつ形を現してきた中心市街地から近い場所に、今年1月15日、町とJAいわて花巻による合築で「大槌町沿岸営農拠点センター」が誕生した。鉄骨造り2階建て、大きな切妻屋根の下にはJAいわて花巻大槌支店と営農研修施設のほか、レストランや総菜加工室などを備えた「母ちゃんハウスだぁすこ沿岸店」が入居する。大槌町では初となる大規模な産直施設だ。

 「震災から5年、場所もスタッフも整って『売り先』が出来た。ここからがスタートです」。

 だぁすこ沿岸店には大槌町や釜石市など100名を越える生産者が登録。束ねる沿岸産直部会の東梅康悦会長も、真新しい施設を前に言葉を弾ませた。“あの日”からの5年…、それは大槌町の農業が再生を果たし、新たな方向へと踏み出す道のりとも重なっている。

 小槌地区や金沢地区など山間地を中心に営まれてきた大槌町の農業。畜産や稲作を柱に多様な野菜を栽培、中でも露地ピーマンは東京市場への出荷実績もあるという。しかし個々の生産規模はあくまで小さく、地場では数件のグループが小さな朝市を開催する程度だった。それすらも震災の大津波で奪われたのだが、その年の内に有志がJAいわて花巻大槌支店敷地に小さな産直「結ゆい」を立ち上げた。「結ゆい」は仮設住宅への移動販売を行い、また学校給食センターや宿泊施設のホワイトベース大槌などへも生産物を出荷、地域の暮らしを支える存在になっていく。そして平成25年、農業再生が盛り込まれた町の都市計画マスタープラン策定を受け、JAいわて花巻沿岸産直部会が結成される。同年にはイオンスーパーセンター釜石店にインショップも開店し、大槌の農業は新たな展開を迎えていた。


平野町長、JAいわて花巻の高橋組合長らがテープカット


11時のオープンと同時に大勢の客がつめかけた


オープン記念の甘酒振る舞い。とおのよつば女性部のお手製


オープンにはだぁすこ花巻店のスタッフも応援に駆けつけた


大槌産のイカ、キャベツ、原木シイタケを使った「いか餃子」

 しかし、と東梅会長。「年間通しての出荷体制の構築が大槌でできるか不安だった」と振り返る。大槌に限らず、内陸と比べ沿岸農業は規模も従事者数も圧倒的に少ない。同様の懸念を感じていたJAいわて花巻は、沿岸地域の気候と特性を生かした作付けが可能な野菜を一覧表にした「野菜栽培暦」を作成。巡回指導や栽培講習会を開き、時間をかけて出荷体制の充実を図ってきた。その成果といえるものが、真冬の12月~1月に収穫し3月まで出荷できる冬取りキャベツ。雪が少なく温暖な沿岸だからできる品目は、地域農業の新たな可能性を人々に知らしめた。「お年寄りも栽培研修会に参加してくれる。お互いを良いライバルに、『いいもの』を作る意識が生まれてきていると感じます」。東梅会長も変化を喜ぶ。

 オープン初日、店内の平台には冬取りキャベツほか施設園芸の青菜類などが並んだ。周囲の棚には様々な農産加工品や菓子類、出来立ての総菜や弁当類も並べられ、冷蔵ケースには地場産の水産加工品も入っている。水産関係者も産直部会のメンバーであり、文字通り『オール大槌』でだぁすこ沿岸店は運営されているのだ。もちろんJAいわて花巻も万全の体制で支援。冬場の品薄にはだぁすこ花巻店はじめ県外の産地間交流JAの品物も取り寄せて対応するほか、食堂では沿岸ならではのメニューとして新たに開発した「いか餃子」や「野菜丸ごとスムージー」を提供。食事にも特産の大槌そばや魚介類を使った定食など、地元の農水産物も積極的に利用する。「この産直を通じて農業や水産業の新しい可能性を探ることができるようになります」。だぁすこ沿岸店設立に奔走したひとり、JAいわて花巻遠野地域営農センターの高橋一弥営農振興課長が未来を描く。


漁港に上がった新鮮な魚介類を使う母ちゃん定食


お昼時になると食堂も満席。大槌そばも売切れご免


産直野菜、野菜パウダー、ヨーグルト等を使用したスムージー

 平成30年には三陸自動車道の大槌インターが施設の近隣に完成する予定で、「だぁすこ沿岸店が、ある意味で『道の駅』のような役割を果たす施設になればいい」と東梅会長は話す。大槌と県内外を結ぶ交流拠点ーそんな光景が、間もなく現実のものとなる。

 “あの日”から5年。大槌、そして沿岸の生産者は新たなステージへと踏み出した。

(取材日/平成27年1月15日
取材・撮影/フリーライター 井上宏美)


和歌山県JA紀の里のみかん詰め放題は大盛況


沿岸の水産加工業者による試食販売も行われた


新おおつち漁協女性部はわかめスープをお振る舞い


「身体あったまるね!」振る舞いスープに笑顔も広がる

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