作文部門
JA岩手県五連会長賞
氏 名 学校名・学年 作品名 該当JA
黒澤 夢 一関市立桜町中学校2年 「母のおにぎり」 JAいわて平泉

母のおにぎり

黒澤 夢
一関市立桜町中学校2年

 「まだかなぁ。」
 試合がある日、その一言で僕の一日は始まる。どんなことがあっても、母のおにぎりほど楽しみなものはないからだ。昼が来るのが待ち遠しい。そして、そのおにぎりにくらいつき、最初に出る言葉は「うまっ。」という一言だ。
 サッカーの練習試合があったある日、久しぶりの母のおにぎりにワクワクした。ここ最近の試合では、コンビニの弁当が続いていたからだ。じっくり味わおうと思っていた矢先、
「次の試合がすぐだから、早く食べろよ。」
とコーチから指示があった。がっかりしながら、さっさとおにぎりをほおばった。
「うまっ。」
ゆっくり食べても、早く食べても、出てくる言葉は一緒だ。母のおにぎり効果か、午後の戦績はすこぶるよかった。
 母のおにぎりのおいしさの秘密を知りたくて、僕は母の手元をじっと観察した。そんな僕に母は、
「どうしたの。」
と話しかけてきた。僕は黙って見ていた。僕が母の作るおにぎりのおいしさの理由を追及するようになって数ヶ月後、「事件」は起きた。
「あぁ!お米炊くの忘れてた!」
慌てたように母は高い声を上げた。とっさに、僕に向かって、
「コンビニ弁当でいい?」
と申し訳なさそうに言った。内心がっかりしながら、
「いいよ。」
と僕はうなずいた。
「昼になったら弁当を届けるよ。」
と言って、母は僕を試合会場まで送ってくれた。何の楽しみもないまま試合を終えた。いつもの自分に比べて、動きが鈍っていた。落ち込んでいたとき、母が現れた。
「頑張って。」
と言葉をそえて、弁当袋をさし出した。弁当袋に手を入れると、温かいものが手に当たった。取り出してみると、僕の大好きな、母の作ったにぎりたてのおにぎりだった。おにぎりをほおばり、ゆっくりかみしめた。
「うま!」
いつもと変わらずとてもおいしい。急に元気がわいてきた。米を炊き直して、お昼に間に合わせてくれた母のことを考えると、なおさらやる気も出てきた。おにぎりを食べた後の試合は調子がよかった。
「ありがとう。」
試合後、僕は母に伝えた。母は、にこっと笑顔を返してくれた。
 「米炊き忘れ事件」から一週間が経った頃、僕は母に聞いた。
「何でお母さんの作るおにぎりはうまいの?」
母は笑いながら、
「知らないよ。」
と言った。今まで、中身の昆布や梅干しのおかげでおいしくなっていたのではないかと思っていたが、どうやらそれが理由ではないらしい。「何でなんだろう。」としばらく考えて、ふと気がついた。そういえば、母はおにぎりをにぎっているとき、「おいしくなれ、おいしくなれ。」と言いながら握っていたことを思い出した。もしかしたら、母の思いがおにぎりをあんなにおいしくしてくれていたのではないか。そして、僕にパワーを届けてくれていたのではないか。
 母のにぎるおにぎりがおいしい理由を知ってから、僕は毎回感謝しながら食べるようにしている。これから先どんなことがあっても、母のおにぎりがあれば何でも乗り越えていける気がする。
「よし、がんばるぞ。」
母の作ってくれたおにぎりを弁当袋に入れて、僕は今日も試合会場に向かって歩き出す。

 
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