作文部門
優秀賞
氏 名 学校名・学年 作品名 該当JA
中嶌 歩 一戸町立奥中山中学校3年 「伝承と受け継がれゆく味」 JA新いわて

伝承と受け継がれゆく味

中嶌 歩
一戸町立奥中山中学校3年

 蓮華ふちどる大きな水鏡、水面に映る新緑鮮やかな木々が満月に届く、たった一夜の神秘的な風景。雪深い奥中山に田植えの時期を告げています。五月の満月の美しさは、自然からの贈り物です。
 宮沢賢治のふるさととして知られる岩手県。今では食味ランキング特A常連ですが、「やませ」吹くこの土地での米作りは厳しいものだったと平成生まれの私でも知っています。
 県内で最も美味しいお米といわれる「銀河のしずく」はキラキラ光る星空からお米一粒一粒の輝きをイメージし、つや、白さ、粘りを表現していると教えてもらいました。残念ながら栽培適地を限定している為生産量がまだ少なく私の住む奥中山では作る事が出来ない品種です。栽培技術の改良を重ねていけば、いつかここでも生産出来るでしょうか。
 農業、農村、農地の価値を守り、先人から受け継いできた技術を次世代へと紡いでいけるでしょうか。度重なる災害、高齢、後継者不足、東北の米作りや農業が抱える問題はあまりに深刻です。規格外が収入につながるよう支援や工夫をしてもらえたなら農業は発展していくのではないでしょうか。作り手が掛けた愛情は特Aになれなくても規格外であっても同じなのです。普段、手に取る物がどれだけ選りすぐれた物であるか、消費者は気付いて欲しい。そんな思いでいっぱいです。
 どんなに食欲が無い日でも、心が折れていても一口で笑みがこぼれてしまう、魔法が掛かった祖母直伝の「鶏ご飯」、餅米だけで作るので「おこわ」と称した方が良いかもしれません。一晩水にひたした餅米を、じっくり蒸す間に鶏肉、ごぼう、人参、しいたけを炒め、味をととのえます。それぞれの食材の香りが広がり香りだけで、心が晴れていきます。母が子供の頃は、お盆やお正月前の家族が揃う日に作られた祝い膳の様なご飯だったと聞かされました。母が作るようになってからは、試験、入寮、入社など応援の為の一膳となり、食卓に並ぶ回数も増え、離れて暮らす兄、伯母夫妻から帰省の度に「鶏ご飯作って待っていて。」とリクエストが入ります。祖母の実家の味だと教えられたので明治生まれの曾祖母から代々受け継がれてきた真心の一膳です。成績の悪い私も、度々この「鶏ご飯」に救われてきました。
 帰省も出来ず、会いたい家族に会えない年でした。休校が長かった春休み中、お盆に備え、私が母に教わり何度も作ってみましたがまだまだ、合数が変わったり食材の量が違ったりすると味が定まりません。
 お盆最終日、赤飯、きのこご飯、鶏ご飯、たくさんの餅米を蒸し、冷凍小分けをしました。ふるさとの味いっぱいの荷物は、家族の疲れた心を笑顔にしてくれるでしょうか。元気の源になるよう願って箱詰めしました。祖母の味になるまで、あとどの位餅米にお世話になるでしょう。離農しても時を定めず、いつでも餅米料理が作れるようになったのは、農家の方々の努力と伝えられてきた技術のおかげだと思います。
 ながかった梅雨が明け、行儀良く並んだ稲穂は少しずつ色付き始め、秋の気配へと変わり頭を垂れています。
 特Aにならずとも米作りや稲穂の頑張りは特Aに匹敵し受け継いだものは偉大だと思いました。
 自然からの恵みと農業に携わる人たちに感謝の心を持ち続け、祖母の味を目指し、鶏ご飯作りに励みます。
 湯気の向こう、四季映す日本の農業が離れて暮らす人達を元気にしてくれるよう願いを込めて。

 
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