高曇りの空から、柔らかな日ざしがクリ林の中に降り注いでいる。

四季を通じて地元の新鮮な野菜や米、果物などが並ぶ
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国道107号沿い、北上市との境に建つ「産直やながわ」 |
その根元をびっしり覆い尽くしているのは、若々しい緑色のミズブキ。「道端のワタブキよりえぐみが少なくて美味しいの」。刈り取ったフキのすじをその場で取りながら「わらしべ工房」代表の安部志津枝さんが教えてくれた。今日はメンバー7人で漬け物用のフキ採りの日。笑い声がクリ林の中にこだまする。

フキ採り作業はわきあいあい
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皆から頼りにされる食の達人・今野富さん。慣れた手つきでフキを刈り取る |

この日は6袋分、約15kgのフキを収穫
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メンバー手作りの郷土食がずらり並んだ昼ご飯 |
平成12年、江刺市梁川の国道107号沿いにオープンした「産直やながわ」組合員の女性たちが、冬場の品薄感を解消しようと加工の勉強を始めたのが「わらしべ工房」誕生のきっかけだ。注目したのは地域に自生する山菜やきのこ。「漬け物にすればみんなに食べてもらえる」と平成15年にグループを結成、各家庭に受け継がれてきた漬け物の技を教えあいながら商品づくりに取り組んだ。「でも試作品は素材の切り方も色合いもマチマチで…。失敗を糧に品質向上に努めました」と安部さん。現在「わらしべ漬け」は産直の人気商品となり、産直のふるさと便にも入れられたことで県内外にファンを増やしている。

食のこと、作り方のコツ。堅苦しい会議では出ないアイデアが飛び出す
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今年3月には助成金を利用して真空包装機を購入。より良い状態で加工ができるようになった |
午後は地区センターで採ったばかりのフキとミズの一次加工。ひと足先に集まったメンバーで、にぎやかな昼食が始まった。調理台に並ぶのは山菜たっぷりのおふかしや草餅、がんづきなど。「わらしべ漬け」はもちろんミズの実を入れた「みずのぼんぼっこ漬け」も並ぶ。「みんなで一緒に食べながら塩漬けのコツや美味しい煮付けの作り方を教えあいます。この楽しさ、そして本当の食べ物の味も伝えていきたい(安部さん)」。現在メンバーは14人。年代は30代から70代までと幅広く、中には都会から梁川に移り住んだ人もいる。歳も部落も関係なく、地域の知恵と技を伝えていこうと頑張る女性たち。その願いが美味しい漬け物を、そして交流とふるさと再発見という「たからもの」まで生み出した。まさに一本の藁が幸せを運んできた昔話「わらしべ長者」である。

作業の合間にも会話はつきない
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一次加工である塩蔵はおからを使用。色よく仕上がるという |
茹で上がったミズを冷水にとる傍らでは塩蔵用の漬け床の用意が始まった。夏には野菜の加工を、秋にはミズの実の収穫・塩蔵を行う。それが終わると「わらしべ漬け」などの二次加工。すべて地場産の素材を使い、調味料も安全なものだけを使用している。

一次加工品は各家庭で保存される。手前はきゅうり、奥はおから漬けのヒメタケ
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砂糖を控えさっぱりとした味付けの「わらしべ漬け」(右)と「みずのぼんぼっこ漬け」 |
手早くミズを茹でながら「今はベストメンバーですけど、誰でも都合の合う時に参加してもらえればいい。ゆるやかに楽しくこれからも続けていきたいですね」と安部さんは話す。願いは子供たちにも伝統食や山菜の美味しさを伝えていくこと。まずは全員の夢である専用の加工場実現のため、より美味しい漬け物づくりに励む日々だ。

茹であがったミズは美しいエメラルドグリーン
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ピンクのエプロンが「わらしべ工房」のユニフォーム |
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