雫石町の中央商店街にある産直施設「あねっこハウス もっす&こしゃるべ」が開くのは、毎週土曜日の朝10時から14時まで。週に一度の営業だが心待ちにしている常連が多く、この日もメンバーが品出しするその横で、お目当ての商品を手にした客が会計に並ぶ。「今日は早いのねぇ」「これから仕事に行くのよ」。気心の知れたやりとりが、小さな店内で繰り広げられる。

「あねっこハウス」は産直グループ20人と工房グループ15人で運営されている
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週に一度の営業はまず玄関の雪かきから
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メンバーがそれぞれ野菜や加工品を持ち寄る
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9時に店が開くと同時になじみの客が訪れる
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施設を運営するのは、笹田美枝子さんが代表を務めるJA新いわて女性部雫石中央支部の有志35人。地産地消活動とふれあいの場作りを目指し、3年ほど前からここ雫石中央支所の敷地内で行っていたテント販売の「ふれあい青空市」を経て、昨年3月26日に元の資材店舗を改装して開店。以来、厳しいこの冬も休まず営業を続けてきた。「確かに大変でしたが、挑戦もしないで『できない』とは言いたくなかった。その甲斐あって冬でもお客さんが来てくれています」。笹田さんは微笑む。

値段はみなで相談しながら決め、シールを貼る
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メンバーの中には花の生産者も。春の色だ
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町内の新鮮野菜はじめ手作りの餅菓子なども人気だが、なんといっても「あねっこハウス」の大きな魅力は、施設内で作って売る本格手打ちの二八そばだ。産直には隣接した加工場があり、メンバーのうちインストラクターの資格を持つ滝沢恵子さんら3人のそば打ち名人と、サポートを含む合計15人の「めん工房」グループが腕を振るっている。

雫石あねっこのミニチュア菅笠やほうきなどの手工芸品
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ひとパックは2人分(300g)。そば湯も美味しい
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使うのは上皮を取り除き石臼で挽いた地元産そば粉。しかも風味を残すため水だけでしっとりとまとめあげる。「粉の状態や気温で加減しながらやらないと」と話す達人の桜田シゲ子さんの手さばきの早いこと。出来上がった生地を切る滝沢さんの包丁さばきも、まさに熟練の技である。「石臼挽きだから粉も滑らかで、つるつるっとのど越しもいい。日本一おいしいって言われたのが嬉しくて」と滝沢さん。パック詰めされたその先から、産直で出来上がりをまつ客が次々と買い求めていく。

上皮を取り除いた粉は「雫石あねっこ」と同じ色白美人
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生地は水だけでこねたとは思えない滑らかさ
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作業の合間も笑顔がたえない
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あて木を使わずに正確に切っていく滝沢恵子さん
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販売のほかにも出張そば打ちや体験教室はじめ、盆の恒例イベント「ふれあい青空市」や農業祭では打ちたてを食べてもらっている。もちろんイベントでは直売グループの20人も大活躍。客とのふれあいを大事に、活動すべてを楽しんでいるという。「メンバーはもちろんお客さんからも色々教えてもらえる。何気ない世間話が大事な情報交換です」と笹田さんは話す。

手作りのきりせんしょや大福、豆餅などは人気商品
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地元の大豆を使った「よしゃれ味噌」
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店名の「もっす」は方言で「ごめんください」、「こしゃるべ」は「作る」という意味。名前に込めた願い通り、売り手と買い手の交流の輪が、小さな「あねっこハウス」から大きく広がっている。
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