八戸行きの下り電車が、ゆっくりと小鳥谷駅のホームに入ってきた。
通勤通学ラッシュもひと段落したこの時間は乗客もまばらで、人々の足どりも改札の風景ものんびりとしている。

小鳥駅内に設けられた「ニコニコ駅こずや」。元の切符売り場などを改装した
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メンバー手作りののれんが営業中の目印
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土日は遠方からの客も多いが、平日は近所の常連でにぎわっている
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加工場は平成16年12月に整備された
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そんな駅の一角にあるのが、ミニ産直「ニコニコ駅こずや」。IGRいわて銀河鉄道による駅舎の有効活用企画にJAいわて奥中山小鳥谷支所が利用を申し込み、平成16年4月にオープンした。運営しているのは代表の川畑久美子さんほか、小鳥谷地区の農家女性7人である。

こねた小麦粉の生地はすぐに茹でる
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くしもちはたっぷりの味噌にからめる
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じっくり炭火で焼くから香ばしい
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1本70円。アツアツの美味しさは格別
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開店直後の午前9時、店奥の加工場では「くしもち」作りが始まっていた。小麦粉のまんじゅうを熱湯で茹で、特製の味噌をからめて炭火でじっくり焦げ目をつける。「作り始めた頃は硬かったり柔かったり。お客さんから教えられて作っていったの」。作業の手を休めることなく川畑さんは話す。今では産直の人気商品のひとつであり、この日も焼き上がったそばから次々に売れていく。「こごのはおいしいんだよ!」。元気に太鼓判を押してくれたのは、農作業のこびる用にまとめ買いにきたおばあさん。もっちりした生地の歯ごたえ、さっぱりと甘い味噌。なるほど、後引くおいしさだ。

旬の野菜がカゴに入って並んでいる
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収穫した山菜の水煮。春の人気商品だ
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もちろん農産物の種類も豊富だ。ほうれんそうやダイコン、白菜などの野菜から、春の山菜の水煮なども並んでいる。そして旬を迎えたサクランボ! 瑞々しいオレンジ色の香夏錦(こうかにしき)、ツヤツヤした深紅色の紅さやか、そして佐藤錦。さすが県北屈指の生産地、サクランボの種類も豊富である。「もうちょっとすると桃やスイカも出てきます。秋になればカボチャとか。小鳥谷のブドウも有名だね」。そう話す川畑さんは、ホウレンソウほかダイコン、とろろいもなどの野菜を生産。この日の当番の小姓堂京子さんと草刈ナカさんはサクランボなどの果樹栽培を手掛けている。7人のメンバーそれぞれが違うものを作っているから、こんなにも品揃えが多彩なのだ。

おしゃべりも楽しみのひとつ。話が弾み過ぎて電車に遅れたお客さんを車で送ったこともあるとか
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レジの横にはサービス(?)のあめ玉が
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気が付くと、小さな店内は人であふれている。エプロン姿の主婦もさることながら、帽子を被ったおばあさんが多い。「今日はどこさ行くの?」「一戸の病院だ」「電車に遅れないでよ」。川畑さん達がかける言葉のひとつひとつに、飾り気のない気遣いがにじんでいる。
「畑仕事の服でいい、泥だらけの靴でもいい。買わなくてもちょこっと話に来る。そんな風に人が集まって、ふれあいの場所になっていけばと思ってるから」。
小鳥谷駅のもうひとつの「待合室」として。
「ニコニコ駅こずや」は、地域の人に欠かせない存在なのだ。
営業は毎週火曜・木曜・土曜・日曜の午前9時〜午後3時。

場所柄ゆえ乗降客の常連も多い。高校生も「恥ずかしそうに」買い物にくるのだとか
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左より、川畑久美子さん、草刈ナカさん、小姓堂京子さん。7人で農作業や家事など都合をつけあって産直の当番をしている
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