岩手県南地方などでよく作られる「がんづき」は、砂糖や卵などを加えて練った小麦粉の生地を蒸して作る郷土菓子。いわゆる蒸しパンではあるが、ゴマやクルミ入りの茶色い生地と、もっちりした食感はまさに「和」のおやつ。懐かしく素朴な味わいである。

がんづきの定番は、味噌味・塩味・クルミ入りの3種類
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材料はミキサーも使ってしっかり混ぜる
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「でも昔のは少し『ヌカッ』っとした食感でしょ。うちのはちょっと違いますよ」。
そう言って佐々木マツコさんが差し出したがんづきは、まるでスポンジケーキのようにふわふわの食感。弾力はしっかりあるが、佐々木さんのいう「ヌカッ」とした感じ―粘りや重たさのようなものはない。「このきめ細かさは他にはないって言われます。何回もやり直して作った、私たちだけの味だからね」。佐々木さんの言葉に笑顔でうなずくのは「弥生グループ」のメンバー8人。全員が一関市弥栄地区に暮らす農家女性である。

とろりとなめらかな生地。小麦や牛乳など材料の多くは地場産
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1度に32個のがんづきが出来る大型の蒸し器
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強い火力で蒸し上げることでふんわり感が生まれるという
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大サイズ(210グラム)ほか小サイズ(110グラム)もある
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平成14年、合併にともなって空いたJAいわて南弥栄支店の有効活用にと、佐々木さんたちが味噌加工を行うようになったのがグループ誕生のきっかけだ。がんづきを始めたのは「冬場の味噌作り以外にできるし、昔から家でよく作っていたから」。そんななじみ深い味ではあるが商品化となれば話は別で、材料や作り方の試行錯誤を繰り返し、今までにないふんわり感を出すのに成功した。これを当時北上川に完成した大橋にちなみ「大橋がんづき」と名付けて「道の駅かわさき」で販売したところ、大ヒット。あちこちから注文も入るようになり、今や市内のデパートやスーパーでも売られるほどになっている。

蒸し上がったがんづきはあら熱を取るため移しかえる
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1個1個ていねいにラッピング。全てが手作業だ
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製造はメンバーがローテーションを組み、1日3人体制で朝8時から夕方5時まで
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スポンジケーキのようなきめ細かな断面が「大橋がんづき」の特徴
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これだけの人気商品なので、加工場も年中無休。訪れた11時にはがんづきが蒸し上がり、横では2回目の生地作りが始まっていた。材料を合わせ、重曹を加えて混ぜる。「ふんわり感の決め手は強い火力と蒸し時間。あと粉もしっかりこねること」と佐々木さんはいうが、同じ状態に作るにはやはり経験がものをいう。しかも多い時は1日800個ものがんづきを作り、他にもだんごなどの餅菓子や総菜類まで作っている。「家の仕事が忙しくても続けてこれたのは、やっぱり加工が楽しいから。みんな『自分の会社』という意識で頑張ってきたんです」。これまでの5年間を振り返るように話す佐々木さん。同じ時間と思いを共有する仲間がそこにいる。

加工場の一角で昼食。気心の知れた仲間同士、おしゃべりに花が咲く
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今日のお昼はメンバーが持ち寄ったおかずと出来立ての餅
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昨年、「大橋がんづき」は日本農業新聞社主催の「2006日本農業新聞一村逸品大賞」で金賞を受賞。岩手県主催の「06年度むら・もり・うみ女性アグリビジネス活動表彰」でも活発な活動が評価され、優秀賞を受賞した。ダブル受賞に充実感を感じつつ、一方で「よりよい運営のしかたも考えていかなくちゃならない」と佐々木さんは話す。視線は常に一歩先を見ているようだ。
グループ名の「弥生」は、「弥栄に生まれ、生きている」という意味。地域に根ざした佐々木さん達の活動は、しなやかに変化しながら続いていくことだろう。

商品ラインナップは多彩。「弥生みそ」は学校給食センターにも納品している
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手前左より、佐々木憲子さん、岩渕幸子さん、佐々木マツコさん、佐々木征子さん。後ろ左より、岩渕浩子さん、佐々木世貴子さん、岩渕ちとせさん、岩渕央子さん、佐藤良子さん
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